屋久島だより vol.1 屋久島が教えてくれる、生きるための自然の知恵『ギャップ』
竹本大輔
屋久島の森を歩いていると、たくさんの種類の植物が生き生きと育っている様子に圧倒されます。頭上を見上げても、足元を見ても、木や草、コケやシダが生い茂り、その力強さに驚かされます。人間はその大きな森の一部を少しだけ切り開いて生活していますが、森全体の壮大さにはかなわないと感じます。
そんな森の中にも、ときどき明るく開けた空間ができることがあります。これは、台風で木が倒れたり、大雨で土砂崩れが起きたりしたときにできる「ギャップ」と呼ばれる場所です。ギャップは、一見すると「自然の被害跡」のように見えますが、実は植物にとって新たな成長のチャンスの場所なのです。
でも、そこに集まる植物たちは全員が「我先に」と競争するわけではありません。最初に明るい場所を目指して育つ「先駆種」と呼ばれる植物がいます。一方で、「極相種」という日陰で成長しやすい植物は、先駆種が先に大きくなってくれて日陰を作ってくれるのを待ってから、ゆっくり育ちます。その他にも、その中間的な性質を持つ植物など、さまざまな種類がいて、それぞれが自分の特徴を活かしてギャップを利用します。
2023年の台風6号の影響を受けたヤクスギランドの様子
植物たちが自分の特徴を活かしながら限られた空間で生き延びていく姿は、なんだか人間社会にも通じるものがあります。それは、変化の中でどうやって生き抜くかを考える姿や、組織の中で自分の個性を活かす方法を考えること、あるいは、競争の中でどうやって成長していくかを考える姿に似ているのです。
屋久島の森に突然現れる明るいギャップや、そこに生きる植物たちの工夫や戦略を見ていると、癒やされるだけでなく、生き方や考え方についてたくさんのことを学べる場所だと感じます。